
鈴木 光司
作家
- 楽曲の感想
神の恵みで最期の7日間が与えられたとしても、高望みを希望しない妻の無欲で純真な心が、さわやかな感動を呼びます。
彼女が欲するのは、何ら変わることのない日常の光景のみ……。
それこそが、夫婦が幸福に生きてきた証しでしょう。 この曲を聴いていて流れるのは悲しみの涙ではありません。
聴くたびに、満ち足りた気分になるCDです。
- 「あなたの最期の『七日間』」または、“あなたが最期にしておきたい、おかねばという願い”
曲を聴きながら、妻と語り合う機会を持ちました。その結果、わたしたちの最期の七日間は以下のように過ごそうと意見がまとまりました。
ぼくの妻に、「『最期の七日間』が与えられたらどうする?」と訊いたところ、「果てに行きたい」という奇妙な答えが返ってきました。「はて? 果てって、どこ?」と問い返すと「これまでに行ったことがないところ……、たとえば、南極とか。ううん……、違う。宇宙に出て、わたしたちが生きてきた地球を眺めてみたい」
楽曲に出てくる妻の素朴な願いと違って、ぼく妻の願望は少々欲張なようです。
「もう少し現実味のある願いにしたら?」
そう提案すると、「なら、VR(仮想現実)でもいいや。あなた得意でしょ」と、妥協案を出してきました。確かにぼくの友人にはVR制作のプロがたくさんいます。彼らの協力を仰いで、最期の七日間にふたりだけで見るVRを作ってほしいと、妻は言うのです。
さて、VRに展開される世界はどのようなものでしょうか。まるで旧約聖書の創世記のような壮大な物語りなのです。
第1日目は、宇宙誕生直後のダイナミックな映像から始まります。重力によって水素と塵が集まって太陽系を形成していきます。
第2日目では、太陽系の第3惑星である地球が生命の住みやすい環境に変化し、海の中で原初の生命が生まれます。
第3日目には、進化を遂げた生命が陸地に上がり、ある種は空を飛ぶようになります。
第4日目には環境が激変して恐竜が滅び、その隙間をついて繁栄した哺乳類から人類が誕生します。
第5日目は人類の大冒険の始まりです。言語を獲得してアフリカを出た人類は、アリューシャン列島を超えて世界の各地(果ての果て)へと行き渡ります。
第6日目では、各地に散った人類の末裔たちの中、日本列島に到達した人々の暮らしぶりを、縄文時代から現代まで辿ります。
そして第7日目。現代の日本で、40億年という生命史の果てに、10歳の少年と少女が出会い(妻は小学校時代の同級生)、成長し、縁あって結婚し、子と孫を授かり、年老いて、最期の日を迎えるのです。
(妻とのわたいもない会話から発生したVR企画は、結構おもしろそうなので、実現の運びに持っていきたいと考えています)