俵 万智
歌人

楽曲の感想

一回目、新聞に掲載された宮本英司さんの投稿を読んですぐに聴いた。涙が止まらなかった。二回目、台所でラタトゥイユを仕込みながら聴いた。夏の定番の一品だけど、この時間のかけがえのなさを思った。三回目、テーブルに前菜を並べながら、友人たちを待つときに聴いた。数えきれないほど飲んできた私たち、もし今日が最後だとしたら、どんな話をするだろうかと考えた。日常を丁寧に味わう、そのきっかけをくれる歌だ。それから何度も聴いた。最期の七日間の願いはかなわなかったけれど、この人の人生はなんと豊かだったかと今は感じている。作りたい料理の手順も、ドライブしたい場所の景色も、会いたい人たちの表情も、細部に至るまで思い浮かべることができたはず。

それは、素晴らしい時間を、彼女が過ごしたあかしだ。最期の願いが、人生でかなわなかったことではなく、すべて味わってきたことだなんて、素敵すぎる。無念ではなく満足の歌なのだと思う。

「あなたの最期の『七日間』」または、“あなたが最期にしておきたい、おかねばという願い”

息子と一緒に過ごしたい。できれば、一日目は生まれたて、二日目は言葉以前のコミュニケーションのころ、三日目は言葉を覚えはじめたころ、四日目は幼稚園児くらい、五日目は小学生、六日目は中高生、七日目はそれ以降の息子が現れてくれたら最高。