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クミコ - ココロの扉をたたくウタ

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2009年10月21日

「はじめて物語」

目に障害のあるかたが、私の歌を聴いてくださっています。
ライブに来てくださるかたも、お手紙をくださるかたも。
でも私は声に自信がありません。
どちらかといえば「見て」楽しんでもらってる歌い手かと。
それがそうではなくて。
「音楽家」のような、ちょこっと晴れがましい気持ちです。

せんだっての長谷川きよしさんとのライブ。
きよしさんはもちろん、何も見ていません。
私はアンチョコ見てます。
歌詞、唄い分け、いろいろ心配です。
でもきよしさん、なんにも心配してません。
私はきよしさんをじっと見ます。

きよしさんは人の名前をすぐに覚えてしまいます。
ナニナニです、といったら次からもう、その名前で
その人を呼びます。
何人でも同じこと。
今朝、床の中でふと心配になりました。
いろんな人の顔と名前を思い浮かべました。
ダメです。
名前なんか出てきません。

人の顔、文字、譜面、写真、それらの記憶は
もしかしたら何の助けにもならない。
もっともっと大きな海のような空のような。
そういうものの中にきよしさんは生きているのだなあ。

だからきよしさんのそばにいるとうれしいのかも。
音が、声が、はじめて生まれて立ち上がってきて。
そんな「はじめて物語」の中に私もいるようで。

視力を失ったかたがたの前で唄うこと。
はじめ不安でした。
なんにもない私かも。
玉ねぎみたいな私かも。
でも、思いのほか多くのかたが聴いてくださる。
うれしいことでした。

これから私は、目も口も耳も大きく大きく開けて
ただただ唄っていきましょう。
生まれたてみたいに「はじめて物語」にドキドキして。