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2009年11月17日

「森繁さん」

森繁さんに会ったことは、ない。
森繁さんのお孫さんという女性には、ずいぶん前に。
すごいおじいちゃんをお持ちですねえ、皆がみょーな感心をした。

これまたもっともっと前。
初めて福岡に行った時、連れられた小さな店の女将さん。
品のいいふくよかな、いかにも名物女将。
なぜかあちこちに森繁さんの書が。
同行させてくれた方がそっと私に耳打ちをした。
このかた、あのね、ほら森繁さんの。

「夫婦善哉」は私のベスト映画の一つ。
25才、正月だというのに地獄のような気分のまま、ぽっとテレビをつけた。
そこに映った男と女は、
愛しく、悲しく、おかしく、凄まじく、とことんショウモナイ。
そうか男ってこんなショウモナイんだ。
人間ってこんなショウモナイんだ。
それじゃあ、しかたない。
私は自分の地獄を受け入れるしかない。
ショウモナイ自分を生きていくしかない。

森繁さんは、ショウモナイ人間をやらせたら天下一だ。
これまでもこれからも、こんな人はいない。
点と点の間をふらふらしながら、寄り道しながら行き着く、そんな芸の人だ。
誰だって直線でびしっと最短に決めたい、そんな思惑を見事にはずず。
ゆらゆらふらふらの間に、えもいわれぬ色香が匂う。
遊びといってもいい、余裕といってもいい。

ほんとかうそか、森繁さんの晩年。
ご長男の葬儀の時。
子に先立たれた慟哭の中、ふっと目の前を横切った女性のお尻。
いつものようにぺろっと触ったという。
これぞ森繁さん。
こうでなくちゃ。