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2010年4月23日

「あちらとこちら」

井上ひさしさんは、その後きちんとたっぷり取り上げられ
安堵いたしました。
これでしっかりと「あちら側」の人になりました。
残念だけれど、もう「こちら側」にはいないのです。

時々、「あちら側」だと思っていると「こちら側」にいる人も
いて、そのたびあわてます。
ありゃ、この人死んでんじゃないのお。
ココロの中で叫びます。
死んでんじゃないのお、が、死んでたんじゃないのお、に
等しく、なんだかミョウな具合です。
うっかり「こちら側」に戻ってきたようでもあります。

父親が心臓カテーテル治療のため、また入院しました。
半年前に、一箇所「ステント」という、血管を広げたままにする
器具を入れたので、それがその後詰まっていないかの検査と、
もう一箇所、ほとんど詰まったままの場所に、また「ステント」を
入れようというものです。
医者によると、あちこちボコボコとしている血管なので、
本当は「バイパス手術」がいいらしい。

「バイパス」とはよくいったものです。
ぐちゃぐちゃ混雑したとこすっ飛ばして、スーッと一本、
新しい血管道路通しちゃう。
まったく理にかなっているなあと感心します。
でも、この血管、別の場所から持ってくるわけで、
生きのいい太腿あたりから調達せねばなりません。
一ヶ月近くの入院になります。

心臓が新品になっても、どうなんでしょう。
日々、アタマも含めて全体が確実に衰えていってる人間に
それってどうなんでしょう。
「人間には寿命ってありますよね」
術後、病室に説明にきた若い医師に聞きます。
父親に聞かれないよう、病室を出たところを追いかけます。

「他に合併症がなければ大丈夫ですよ、糖尿とか肝臓とか」
バイパス手術はそういうもんだというのです。
そうだ、若い医師に「寿命」って言葉は、伝わらないんだ。
彼の辞書に「寿命」はないんだ。

あのですね、人間も生きものだから、徐々に衰えやがて死にますよね。
てことは、カラダのあちこちが、段々と衰えてくってことですよね。
だから一箇所、ぴんぴんにするって、ヘンじゃないですかね。
きちんと「死ぬ」ように「生きてく」ことが、生き物のあり方じゃないですかね。
父親はもう82才なんですから。

こんなこと、いってもせんないなあ、と思いました。

「あちら側」に行くのは、大変です。
だから「こちら側」から「あちら側」に渡った人には「ブラボー!」と讃えたい。
そんな気になります。