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クミコ - ココロの扉をたたくウタ

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2006年3月11日

「息苦しい時代」

息苦しくて仕方がない。更年期のせいかと思っていたら、それだけではないらしい。
世の中を漂う良からぬ空気のせいらしい。そりゃないだろうと思うことばかり起こるせいらしい。

私のような歌い手の場合、どれだけ練習していても、これでもう大丈夫と思っていても、生番組の本番ともなると、とんでもない所で歌詞を間違えたりするのだから、本人の頭の悪さを考えてもやはり本番はコワい。練習の百回が大丈夫でも大丈夫なことにはならない。ましてこれがオリンピックであったら。

ほとんど成功していないように見える四回転ジャンプが、本番ともなれば成功する確率は万に一つもないなあと思いながら、それでもナイことをアルことにさせたいらしいマスコミにあおられ見ていると、やはり転倒。ンなこと、はじめからわかりきってるじゃん、とため息をついていると今度は、よく考えりゃわかるそんな「ンなこと」にだまされた揚げ句、さっさと入院してしまうような政治家もいて、もうこの国ではきちんとしたオトコも絶滅に向かっているのだと思い知らされた。

白っ茶けた気もちで迎えたこの春「ベストアルバム」なるものを出すことになった。今週8日発売の「わが麗しき恋物語」で、ベストなどおこがましい、体のいい肩たたきかとも思われたが一応の区切りになったことは確か。「高橋久美子」から「高橋クミコ」そして「クミコ」へと簡略化された名前のごとく、どんどんサッパリとしてきた51歳のオンナの歌が並んでいる。そして同時に全然サッパリとしていない27歳の時の歌も入っている。世の中をハスに構えたその声は、自意識と緊張で震えているように聴こえる。音源は1982年の「銀巴里」。客席からの拍手の音にそれからまもなく始まるバブル時代の予兆も感じられる。

息苦しい時代は、今も昔もかわらず同じようにあるのだった。

2006年3月25日

「ベルばら」

「ベルばら」を観ることになった。漫画にも宝塚にも興味のなかった私に、これまでこの作品とかかわるチャンスは一切なかった。ところが、歴代の宝塚スターたちがかわるがわる演じ続けてきた伝説のこの舞台、それを今になって初めて観ることになったのだ。

星組の男役スター安蘭けいさんがオスカルを演じるという。門外漢の私でもオスカルがどういうものかはおぼろげに知っている。男装の麗人てやつで、風になびく長い金髪、白いパンツに長革靴、マント付きの制服姿は、これほどまでにカッコ良くていいのかと思うほど。それを演じるというのである。

安蘭さんとは去年の夏、対談をした。歌のうまさでは定評のある彼女が、あろうことか私の歌が好きで、テレビの対談相手として選んでくれたというのだった。盛夏というより酷夏のさなか、ホテルのスイートルームに現れた安蘭さんはほっそりと美しく、照明ライトで汗だくの私の隣、サッパリと微笑んでいる。私も一応、舞台人としてひどい汗かきではないと自負していたが、彼女には負けた。その背中に、宝塚という厳しい環境の中で鍛え上げられた「プロ」の来し方が見えた気がした。

おおこれがフェルゼン、これがアンドレ、名前だけは知っていた登場人物が次々に現れフランス革命が進んでいく。牢獄のシーンは暗いけど最後はまた明るくなるのよねと休憩時間、後ろのご婦人たちが話している。

その通りマリー・アントワネットのギロチンへの階段から転じて、舞台はアッという間にレビューへと変わる。余りの見事さに背中がスーッとする。これが舞台のカタルシス、「プロ」の仕事、思い切り拍手をする。開演から三時間近くで幕は閉じた。ああ、きれいだったというため息だけが劇場に漂う。

終演後の楽屋口、久々の再会に抱き合った安蘭さんの体はいっそう細く、白いガウン姿はまるですずらんのようなのだった。