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2009年5月3日

「心臓の事情」

父親が風呂に入るたびに苦しくなる、と母親から聞いたのは3月も終わりの頃だった。そろそろ桜が満開を迎える頃。それから、検査は始まった。

心電図とかエコーとか心筋シンチグラフィーとかカテーテルとか。狭心症と心筋梗塞の違いもわからなかった私が、いっぱしヒトに説明できるようになった。

心臓には太い動脈が3本あってね、こんな風に心臓内部を包んでるの、それでウチの場合はココとココに詰まりがあってね。

「心臓バイパス手術」など、これまで聞いたことはあっても、生涯関わりもないと思っていた手術の方法が、医者の口から事もなげに説明される。コレが一番確実なんですよ。

心臓を輪切りにして、時計でいうと11時と4時あたりの場所にヘコミが見られる父の心臓を映したフィルム。ホーとかアーとか、二人でただ見つめる。おっきくてモノモノしい検査器具を背に、いつからこんなに悪くなっちゃったんだろうなあ、父がつぶやく。

すべてが何だか夢の中のできごとのようだ。でもこんなこと、きっとみいんなやってきてるんだろう。知らない誰かれと重なり繋がる自分たちが見える。

システム化された医療現場でモノゴトはサッサと進むしかないので、ア、と思っているうち手術台に上ることになる。でもヒトにはヒトの、父には父の生きものとしての事情がある。考えに考えて医者に伝える。当分、お薬だけにしてください。

父と母と私、三人の「斉藤さんちの物語」はいよいよ最終章を迎えつつある、らしい。ところがどっこい、これが一番長く、濃く、味わい深いところ、らしい。