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クミコ - ココロの扉をたたくウタ

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2011年1月9日

「紅白」は神事だ

ドレスの襟元を飾るのは、布で折られた鶴たちだった。一羽一羽、丁寧に折られた鶴たち。

その一羽が頬に触れた。柔らかい鶴だった。これから唄おうとする「INORI~祈り~」が、決して強く声高な歌ではないことを教えてくれるような柔らかさだ。思わず深呼吸する。

「紅白歌合戦」が、こんなに緊張するものだと、覚悟はしていたけれど、本番が近くなるにつれ、やっぱり並大抵の重圧ではないと、思い知らされた。

もうやれることはやった、と思っていても、アチコチのことが気になり始める。失敗した時の、がっかりする顔たちまで、目の前にちらつく。

この伝統行事のような番組、本当に「伝統」らしく、本番当日すること。それはまずホールの神棚への拝礼だ。局側のスタッフ、司会者が、一人一人拍手を打ち、頭を垂れる姿に、背負わされたモノの大きさが見える。しばらくじっと頭を下げている人など、その胸に去来する思いに、こっちが思いを馳せ勝手に目頭が熱くなってしまったりする。

皆で一丸にならないとできない巨大な番組には、延べ五千人が関わると聞いた。舞台で光の当たる歌手の数は、たかが知れているが、それを支える汗と埃まみれの裏方の人たち、電波の向こうで歌を受け取る人たち、考えるだけで途方もない。この途方もなさが「紅白」なのだと知った。

私の唄う場面では、百個以上あるというキャンドルが灯された。それら一本一本に一つ一つ点灯するスタッフにリーダーが指示する声。あと何秒、あと何秒。

そして歌の紹介の終わりと同時に彼らは消え、曲のイントロと共に、私が浮かび上がる。

すっと落ち着いたココロで唄いだ出せた瞬間を「歓び」とも「幸せ」ともいいたい。やはり「紅白」は「神事」に近かった。