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クミコ - ココロの扉をたたくウタ

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2010年9月5日

「アリ」も「ナシ」も

本当に暑い夏だった。おっと、過去形ではない。いまだにひたすら暑い。残暑なんてウソだ。そんななまやさしいものじゃない。なんたって、人が何十人も死んでしまう暑さなのだ。

どうも勢いの欠けるセミの声を聞きながら、このキョーボーな夏を思い返してみた。私自身は、広島の「原爆の日」に合わせ、皆で沢山の折り鶴を集め繋ぎ束ね運び、その数実に7万。充実した気持ちを味わったが、世間を見渡すとそれどころではなかった。

暑さで死ぬ人もあれば、とうの昔に死んでいるのに生きているフリをされた人もあるらしい。出て行ったきり、どこでどうしたかわからない人や、押入れの中で骨になった人もいる。

それにしても一人の人間が、こんなに簡単に、その姿を消すことができるとは知らなかった。人が一人死ぬことはもっと面倒なことだと思っていた。

私の祖父などは、田舎で商売をしている人だったが、東京で働く息子の一人が何を勘違いしたのか、葬儀に自分の会社の人間を集めた。遠い所まで、顔も見たことのない人のために行列させられる人たちを見て、イナクナルこともなかなかに大変なのだと思った。

先だって、炎天下の東京タワー近くを歩いていると、わずかの間に二人のホームレスに出会った。一人は大きな荷物を両手に、真っ赤な顔とうつろな目で小刻みに足を進める。もう一人は、寺の隅からパンツいっちょう、黒いんだか赤いんだかわからぬ、まるで餓鬼のような有様。暑さであぶりだされた二人の姿に、アリツヅケルことも、イナクナルことも、どちらも生半可なことではないと、背筋が冷えた。