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クミコ - ココロの扉をたたくウタ

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2007年6月2日

「スズメの涙」

ああ困ったなあ、と思った。いい話のようではあるけれど、どうも困った。よくよく考えてみるとなお困った。テレビで盛んに映された「しゃべるスズメ」の話だ。

あのね、私、ケガしちゃって助けられたんですねえ、この付近の人たちに。そんでもって手厚い手当てを受けて、ヤレヤレ九死に一生って思ってたら、そのままカゴに入れられちゃった。そりゃ、すぐさま放してくれるとは思ってなかったけど、まさか飼われるとも思ってなかった。

だって私、スズメですよ、スズメ。文鳥とかカナリヤとかインコじゃないんです。野鳥ってやつ。自分でエサ探して生きてくって種類の鳥。つまりまあ、元々生まれが違うわけですよ、飼われるやつとは。

そんでもって、どういうわけか、店先らしいとこに置かれちゃった。窓の外にはこの前まで自由に飛んでた空が見えるんですけど、私は狭いカゴの中。チュンチュンチュンチュンいってるしかない。

そしたらまあ、あなた、驚いたことにここのおばあちゃんが話しかけるんですよ、私に。オハヨウ、コンチワ、コンバンワ、イラッシャイ、アリガトウ。なんせおばあちゃんヒマでしょう。一日中、一日中ですよ、私に話しかける。私ときたらホラ逃げ場がないでしょう。もうノイローゼになりかけて。

ところがある日、突然その言葉がクチバシから飛び出した。自分でもびっくり。訳がわからない。おばあちゃんもびっくり、みんなもびっくり。

次の日からテレビカメラやらレポーターやらがドサドサやってきて、こんなちっちゃい町は大騒ぎ。スズメの恩返しだって。こんなもんで恩返しっていわれるなら、いくらでもやりますけど、もうそろそろいいんじゃないですか。このまま一生この狭いカゴの中で、もっと色んな言葉を一日中浴びせられるんですかね、私。ああ、空が飛びたい。

2007年6月16日

「恐るべしハクビシン」

夜道をほろ酔いで歩いていると、数メートル先を、ナニモノかが横切った。やけに平たく伸びた姿。フェレットか、と思ったらどうやら違う。これまで見たこともないモノ。

「ハクビシンだ」、連れが叫ぶ。え、ハクビシン。ハクビシンって、あのハクビシンと、どこを指して「あの」なんだかわからないまま、ただ驚く。

ほんの一瞬のできごとだ。こんな都会のまん中、人通りの多いコンビニの前をスーッと横切ったモノ。ネコより低く静かに。でもネコと違うのは、電柱脇に立てかけてあった自転車二台をひっくり返したこと。ネコなら何物の間でもくねりながら、ソソソと跡かたもなく消え去っていく。さすがに野性の生きモノだけのことはある。粗暴だ。

目撃者はおそらく三人。私たち二人と、ちょっと前を歩いていたサラリーマン。この男性も頭の中にクエスチョンマークを点したまま帰宅したに違いない。そして私と同じように、すぐパソコンのスイッチを入れ検索したに違いない。「ハクビシンって何」。

どうやらコイツ、そこらにいても不思議はない生きモノらしい。害獣駆除の項もあるくらいで、性格は凶暴。夜行性で屋根裏などに住みついてしまうらしい。そういえばSARSが流行った時には、その元凶のようにいわれたこともあった。

翌朝、区役所に電話をかけた。ハクビシン見たんですけど。保健所に回された電話口で係員は、まあ、自然界の生きモノなので、別に自然の中で殖えてもいないようなので、自然淘汰してしまうというのもありますし、とやたら自然を強調するが歯切れが悪い。じゃあ、大変なことになったら、その時何とかするってことですね、と念を押すと、エ、まあそういうことでと、ひるんだ声を出す。

ハクビシンの自然淘汰かあ。人間も含め都会のヤワな生きモノたちが太刀打ちできるんだろうか。恐るべしハクビシン。