2009年1月10日
「上を向いて歩こう」
昨年の元日の朝は、カラスとの遭遇によって非常に不愉快な思いから始まったのだったけれど、よくよく考えてみたらカラスにもカラスの事情があったのだった。
今年の元日、やっと咲いた紅白のミニシクラメンの鉢をベランダに出し、洗面所から戻ってみると何やら黒い影が動いている。次の瞬間、窓をガラリと開け「コラ!」。大きなカラスがあわてて飛び去った。
油断もスキもない。あぶないところだった。それにしても、こんなちっちゃな花を狙うなんてといぶかしめば、隣の家の窓枠につかまりカチカチと排気口あたりをかんでいるやつもいる。
そうか、元日の朝のカラスはみんな腹ペコなんだ。シーンと静かな街には人もゴミもなく、何も動いていない。ワサワサとカラスだけが目につく。
目出たい正月もカラスには「非常時」なのだなあ、と思えば、今年は人間にとっても「非常時」になっていた。
テレビをつけては、こんなに涙した正月も珍しい。公園で炊き出しに集まる人々の背中。人の情けが身にしみると紙食器を抱える人。故郷の家族の写真を、胸に大切に収める人。その人の赤くひび割れた手。昨日から何も食べていないと話し、今何か食べられたら泣いちゃいますと笑う人。脱ぎ捨てられた靴が通路をふさぐネットカフェで、それぞれが迎える新しい年の朝。
ふと「上を向いて歩こう」を口づさんでいた。まだまだ貧しい、それでも希望だけが輝いていた時代の歌。あれから半世紀もたってはいない。
「上を向いて歩こう 涙がこぼれないように」
名曲は色あせていなかった。