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クミコ - ココロの扉をたたくウタ

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2006年7月15日

「キス上手」

ポルトガルの若い選手が、サッカーボールにキスをして地面においた。そして蹴った。 神を宿らせたかのように、そのボールは一直線にゴールに突きささった。

サッカーがこんなに官能的なスポーツだとは知らなかった。どうりで世界中で愛されるわけだ。それにしても最後になって、なぜ頭突きをくらわせなくちゃならなかったんだろうと、哲学者的風貌のジダン選手のことを考えながらスイカをパカンと割った。どうみても甘くなさそうな淡いピンク色の果肉の中に黒いタネがびっしりと並んでいる。ペッペッと吐き出しながら、今どきこんな面倒な果物、売れないなあと、時々はゴクリとタネを飲み込んでしまう。

ふとサクランボのことを思いだした。サクランボというより「チェリー」。プリンとかクリームソーダにそえられてくる、あの真っ赤でブヨブヨしたやつのことだ。若い頃、喫茶店でこれが出てくると、必ず誰かがいった。「ねえ、口の中だけでこの枝みたいなとこ結べる?」。意味ありげにいうので、意味を問うとキスのことだという。舌の使い方がうまいとうまいキスができるという。うまいキスのために、こんな技が必要なのかどうかわからなかったし、うまいキスとまずいキスの違いも知らなかった私は、ただ、キスも奥深いものであるらしいと思った。色恋の「奥義」というやつかもしれんと思った。

おっと、イカンイカン、飲み込もうとしたスイカのタネをはき出した。これじゃあ、まるでオヤジだ。この年になっても、いやこの年になったからこそ、ここはきちんと丁寧に舌を使ってタネを取り出すくらいのことはするべきなのだ。

キス上手の多そうなイタリアとフランスの間でのワールドカップ決勝戦。PK戦のあと黄金色に輝くトロフィーにキスをしたのは、イタリアの主将だった。

2006年7月29日

「水利権」

「例年にない大雨によって」から始まる水害のニュースは、この時期、毎年どこかで必ず流れる。そんな中、信州に出かけた。

カフェオレ色の水がごうごうと山を走る。マイナスイオンが何万個も存在するという大滝は、そのしぶきが白い煙のようになって、あたりの緑の中に漂う。

その深い緑の木々の根元あたりに、何本もの黒い管のようなものを見つけた。電線がもっともっと太くなって、数本の束になり横たわっている感じ。周りの自然とのあまりのそぐわなさに、案内してくれた地元の男性に尋ねてみた。

「さっき、ここへ来る途中のふもとに、食堂があったでしょ。あそこに水を引いているんですよ。以前水害が起きたとき造った、この『堰(せき)』のために、きれいな水をこうしてもっと上から引かなきゃならなくなったんです。『水利権』てやつですよ。どんなにお金がかかっても、たった一軒のためでも、この水利権は守らねばならないんです」

黒く太い管の束は、はるか上流の森の中から、コンクリートの堰をくぐり、あれあれと驚く場所に姿を現しながら、最後には、その食堂へと確かに引き込まれていた。

「水利権」、初めて聞く言葉に辞書を引いてみると「特定の企業者、公共団体、一定地域内の住民、耕地や森林の所有者が、独占排他的に継続して、公水、殊に河川の水を引用し、または水面を利用しうる権利」。

つまり、その食堂は昔から、その場所で川の水を引きながら営業していたので、どんな状況になろうと、きれいな水を引いてもらう権利を有するということらしい。そのためにかかったであろう膨大な費用を想像しながら食堂を見ると、店先でアルバイトらしい男性が「流しそうめん」の機械をふいていた。家庭でも簡単に本物の気分が味わえる、という謳(うた)い文句で売られていたまん丸な「流しそうめん機」にとてもよく似ていた。