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クミコ - ココロの扉をたたくウタ

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2011年3月6日

こうして家ができる

私の部屋の窓から見えた大きな家。その家が消えた。消えた、というのは正しくない。本当は、売却され、解体され、そして更地になった、ということなのだが、ずっとその家を眺めてきた私としては「消えた」というのが、しっくりする。

プールもあるらしい(というのは、夏になると水しぶきの音と、子供の歓声が、庭の奥から聞こえてくる)この大きな家には、かつておじいちゃんがいた。おじいちゃんは子供の人気者らしく、おじいちゃん、おじいちゃんと、彼を呼ぶ甲高い声もずいぶん聞いた。

そのおじいちゃんは、テラスのデッキチェアに座り、手入れの行き届いた広い庭を見ていた。私の部屋から一番近い、まあるいフォルムの大きな木は鳥たちの憩いの場所らしく、いつもいろんな鳥が出たり入ったりしていた。

そのおじいちゃんの姿が見えなくなった。気づくと子供たちは少年になり、家の影に身を潜めてはマシンガンを撃ち合う「戦争ごっこ」をしていた。

そうこうするうち、庭はぼうぼうと荒れはじめ、鳥の集まる木も無残に枯れ、測量するオトコたちが出入りするようになり、とうとう「お知らせ」のチラシが、私のポストに入った。解体作業のお知らせだった。

今年一月終わりから始まった作業は、モダンな白い建物をあっという間に更地に変えた。プールも木もなくなって、盛り上げられた小山のような土を見ていると、やっぱり、この世は無常なんだなあと思う。一つの家族の歴史なんて、こんなふうに跡形もなく消えてしまう。

更地に看板が立った。売り出し中の文字。大きな家は四区画に分かれ分譲された。

そうか、これから新しい家族の物語が始まるんだ。またここから、この土から、人は家族の歴史を作っていくんだ。うん、そういうことだ、わかった気が、した。