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2010年5月2日

「ヒルマヌ教え」

人の「見た目」というのは、案外正しくその人の「若さ」をあらわしているものだと聞いた。見た目が「若い」人は、 血管も「若く」、まあ要するに生物学的に「若い」のである、ということらしい。

だとしたら、井上ひさしさんが、こんなに早く亡くなるのは意外だった。

井上さんが、カーテンコールで舞台に呼び上げられるのを見たことがある。客席の間を身をかがめるように通り過ぎるその姿は、思っていた以上にスラリと長身で、「文学青年」という言葉さえふさわしい佇まい。そんな井上さんは、たしかこの頃に自身の病気のことを告白されたのではなかったか。

思えば、私は井上ひさしという人に、いろんなことを教わった。いろんなことの中で、ただ一つというならコレかなあ、と思う。特に今の時代にはコレだろうなあ、と思う。

「世の中の複雑さの前で、決してヒルマナイこと」

どんどん高度化されていく世界の仕組みの前で、人は途方に暮れる。すべてのことがもう自分の手の届かないところにあるような気がしてくる。政治も経済も科学も、自分とは関係のないところで動き回っているような気がしてくる。自分が無力な虫ケラみたいな気持ちになってくる。

井上さんは、そうじゃないんだ、といっていた。ホラ、こんな風にすれば複雑のものも簡単になるでしょ、見えないことが見えるようになるでしょ。まるでマジックのように示してくれた。

だから人はきちんと声を上げて生きていかなきゃ。生き物として、イタイはイタイ、コワイはコワイ、イヤダはイヤダ。ちゃんと言っていかなきゃ。

喪失の悔しさ哀しさより、今はただヒルマヌ強さを持ちたいと思う。75才の「文学青年」の熱さを思いながら。