クミコオフィシャルサイト - Kumiko Official Site

クミコ - ココロの扉をたたくウタ

茶目子のつれづれ著作権表示

2011年10月2日

「ピアノだって再生する」

今はどうか知らないが、私の年代だと「ピアノ」という楽器には特別な思い入れがある。その昔、エエトコのお嬢ちゃんしか習えなかったピアノは段々とそのラインを下げ、私のような普通の家の娘の習い事としても認知されるようになった。けれどそのピアノを買うなんていったら、それこそ「清水の舞台」、一生モンの覚悟のいる買い物だった。

石巻の津波で泥に埋もれたピアノがあると聞いたのは、震災から3ヶ月経った頃。今年82歳になる老社長が、その30台すべての再生に余生を賭けている、ぜひ見に行ってほしいというメッセージがネットを通じて寄せられ、その情報を頼りに楽器店にうかがった。

店内は、そこが楽器店だとは信じられない有り様で、どこもかしこも泥だらけ、ショーウィンドーのガラスも大きく割れている。

「津波がそこから流れ込み、店内でピアノがぐるぐる回って、やがて路上に飛び出していきました。ピアノの上にピアノが重なり、中にはその上に車が乗っかってしまったものもありました。」

三日間呆然とした社長は決意する。泥ごときに負けて人生終わらせたくない、と。難破船から引き揚げられたような凄まじいピアノを前に私は思わず口走っていた。「一台再生できたら、唄いにきます。」

こうして「再生ピアノコンサート」が走り出した。

震災から半年の9月11日、避難所にもなっている小学校の体育館で、この再生ピアノは見事な音を奏でた。ほら、こうして再生しましたよ、大丈夫ですよ、そんな音だった。

ピアノだって再生する、だから石巻だって、被災地全部だって、必ず再生する。そう確信しながら唄った。石巻の人たちと唄った。泣くまいと思っていたのに、最後涙がこぼれた。